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2010年06月04日 【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(1)
イギリスの医療は国営です。医療費は税金で賄われ、日本のような自己負担はない。だから、税金の使い方は効率的であるべきだという考え方があります。
英国政府は1999年、治療方法を推奨する専門機関「NICE(ナイス)」をつくり、国が提供する薬や検査に有効性、効率性が加味される仕組みになりました。NICEの代表的な仕事は薬や検査、治療技術などの経済評価。費用対効果を計算し、公費での医療提供について、(1)推奨(2)一部制約付きで推奨(3)全く推奨しない〓などの結論を出します。
例えば、英国ではインフルエンザの治療薬オセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)は特に基礎疾患のない成人や子供への使用が推奨されていません。一日早く治る薬剤としては費用が高く、「公費投入に見合わない」という結論です。ある個人には、その一日はとても重要かもしれませんが、税金を使う治療としては見合わないと。
ただし、成人や子供でも循環器、呼吸器、糖尿病の疾患がある人や高齢者には使用が推奨されています。治療経過が悪く合併症で肺炎などを起こす危険があり、その分、医療費がかかるからです。とはいえ、英国でも新型インフルエンザにはタミフルやリレンザを広く使ったようです。新型の危険性が不明だったことや、防疫の意図があったのかもしれません。
NICEの判断は決定でなく、あくまでも推奨。使用の最終判断は臨床医に委ねられます。ただ、非推奨の薬を使えば理由を求められる。病院も費用が支払われなければ困る。推奨されなければ使えないのが現実のようです。(談 福田敬・東京大学准教授)