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2010年03月16日 臨床研究適正評価教育機構は本当に機能するか?
わが国の医療界および製薬企業双方の 健全なEBM(Evidence-Based Medicine=根拠に基づく医療)の発展と実践を願い、臨床医への適正情報の提供と臨床研究に必要な統計解析の教育・指導を目的 とした「臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)」が昨年設立され、その記念すべき発足記念シンポジウムが3月7日(日)、グランドプリンスホテル京都で開催されました。
PJの経験からも大学病院や基幹病院での臨床研究の透明性を深める必要があると感じています。当然のことながら臨床研究の過程でデータのねつ造や隠蔽があってはなりません。特に薬理作用や副作用に関するデータは重要です。診断薬などの場合、擬陽性・擬陰性(ホールポジティブ・ホールスネガティブ)の結果をどう扱うかは大きな問題となります。
製薬会社が臨床研究や治験を依頼する際、その筋のボス(多くは大学教授)に話を通し、ボスの推薦でメンバーを集め研究会の発足式を一流ホテルで開催、手締めが終わるとフランス料理に高級ワイン・ブランデーで優雅な食卓を囲み親交を深めることから始まります。
臨床研究が開始されると頻繁に訪問、研究の進み具合をチェックします。思わぬ問題が発生した場合には、研究スタッフや学術スタッフとデータを解析、その対策を協議します。薬の種類にもよりますが、患者数を確保してもらうため涙ぐましいお願いをすることもしばしばです。承認申請に不都合なデータをどう扱うか最も頭を悩ますところです。
研究データは然るべき学会で発表、他社の開発状況を睨みながら少しずつリークしていくのです。最終章に入るころにはデータをまとめるため、病院に通いづめボスの指導と助言を受けます。いくどかのの会合を重ねた後、最後の打ち上げが新薬発表の講演会となります。それはそれは豪華なパーティーです。上市できれば何百億円という売り上げが期待できるのですから。
一連の臨床研究は概ね上記の過程を通ります。記述に多少の誇張があるとは言え、担当教授やメンバーとの親交は完璧になります。これが実は大きな「不正の温床(メーカーよりの臨床研究結果)」となり兼ねないのです。
こういった実情を含め臨床試験の在り方に危機を抱いた医師たちが集まり、J-CLEARを立ち上げたのです。
設立趣旨には『大規模臨床試験は、公平な結論を導くためにも本来は公的機関のサポートによって医師主導型でのエビデンスづくりがもとめられるが、実際にはその企画・実行・解析には膨大な費用がかかることから、多くは自社製品のエビデンスを必要とする製薬企業の経済的支援によって行われているのが現状である。
大規模臨床試験の結果報道は適正かつ公正であるべきであるが、昨今の企業支援型臨床試験の結果をみる限り、結果が適正に評価され、かつ報道されているとは言い難いものも少なくない。大規模臨床試験において試験製品が好ましいという結果が出される確率は、公的機関の支援による試験に比べて、スポンサー企業の支援によるトライアルの方が約2倍高いという報告もある。もし臨床試験において,支援企業の期待した結果が出なかった場合には、結果を論文化しないあるいは、さまざまな後付解析を駆使して有利な点のみを強調するなどの手段がとられる場合が少なくなく、臨床の判断を誤らせる一因となりかねない。企業間の競争がますます激しくなる今日の社会情勢にあって、このような傾向は今後とも増幅しかねない懸念がある。
わが国の医療界および製薬企業双方の 健全なEBMの発展と実践を願い、臨床医への適正情報の提供と臨床研究に必要な統計解析の教育、指導を目的 として「臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)」を設立しました』(機構HPより抜粋)とあります。
当機構の設立を苦々しく思っている研究者(製薬会社を含めて)もきっといるでしょう。研究者の自発的な倫理委員会ともいえるこの機構が、その設立趣旨に沿って機能することを心から期待するものです。【了】
2010年03月16日 07:00 JST