サイトイメージ 最新ニュース イベント情報 ごあいさつ タミフルとは 薬害タミフル脳症被害者の会について 会員被害者の現状 活動記録 報道 皆様の声 お勧め本のご紹介 要望書一覧 リンク

 

HOME>>報道(一覧表示)>>報道(詳細)

報道

<<前の記事へ次の記事へ>>

2008年03月30日 クローズアップ2008:医学研究「利益相反」 不明朗、ようやくメス

 ◇ルール作りへ指針
 医師や研究者が、利益関係がある企業や団体などから研究費や報酬を受ける「利益相反」。厚生労働省は今月、大学などの研究機関がルールを作る際の指針をまとめた。米国などに比べて利益相反への問題意識が低く、ルール作りが遅れていた日本。厚労省は10年度以降、ルールのない大学などの研究者に研究費を出さない方針を決めた。インフルエンザ治療薬「タミフル」の副作用調査で問題化した企業のカネと医学研究の不明朗な関係。指針は研究の透明化を促すと期待されるが、課題も残る。【高木昭午】

 企業からの資金提供は、限られた予算を補い研究振興に役立つことから、政府はこれまで「産学連携」として推進してきた。しかしメリットの半面、資金提供により「企業にとって都合が良いように、データをねじ曲げられる恐れがある」という指摘もある。

 利益相反のルール作りが遅れていた日本で、これが問題化したのは昨年3月。タミフルの副作用調査を巡り、厚労省研究班班長だった横田俊平・横浜市大教授ら3人が自分の研究室に、タミフルを輸入販売する中外製薬から多額の「奨学寄付金」を受けていたことが発覚した。当時の柳沢伯夫厚労相は「かなり反省すべき部分がある」と謝罪、3人を研究班から外し指針作りを指示した。

 米国では、9年前の「ゲルシンガー事件」を機に、既に利益相反の問題が急激に認識されるようになり、多くの大学や研究機関でルールが見直された。

 ゲルシンガー事件は、99年にペンシルベニア大のヒト遺伝子治療研究所で起きた。実験的な遺伝子治療を受けた男性患者、J・ゲルシンガーさん(当時18歳)が、重い感染症を発症して死亡した。その後の米食品医薬品局(FDA)の調査で、動物実験によって研究者らが事前に同様の感染症を確認していたにもかかわらず、患者やFDAにその事実を知らせていなかったことが明らかになった。

 この研究は、研究所所長が設立したベンチャー企業が資金を提供し、成果の商業化権を持っていたことなども判明した。FDAは動物実験結果を隠した不法行為と判断。米政府はこれを受けて全国調査を実施し、80大学で類似例が652件あり、患者7人が死亡していた。

 このため、米国では利益相反に関するルール作りが一気に進み、現在、医学系大学の95%がルールを作成しているという。ペンシルベニア大は企業から年1万ドル以上の収入を得ている研究者らが臨床研究の責任者になることを原則禁止した。テキサス大はデータの信頼性を確保するため、第三者機関を設置するなどの条件を付けて実施を認めている。

 ◇医学研究、企業のカネ頼み〓〓参加費のみで開催の学会も
 大学などでの医学の研究や学会開催には、企業の資金が欠かせない存在になっている。

 例えば、横田教授が所属する横浜市立大医学部は06年度、製薬会社などから338件、計3億5700万円の奨学寄付金を受けた。企業からの受託研究・共同研究の費用も2億2800万円に上る。大学自前の研究費は1億6300万円で、企業資金が研究費全体の78%を占めた。横浜市大は「(他大学と比べて)特に多額の寄付とは思わない」と釈明、研究機関が企業資金に頼る実態を明かす。

 また、約4000人が参加した日本アレルギー学会の06年秋季学術大会は、開催経費約1億3000万円のうち8000万円以上を製薬会社などからの寄付と協賛金などで賄った。

 学会事務局は「寄付なしでの開催は難しい」と説明する。

 しかし、医学関係以外の学会では、寄付なしに参加費だけで支出を賄うケースもある。

 日本化学会は、参加者約9000人から徴収した参加費などで学会の開催経費約7000万円を捻出(ねんしゅつ)している。

 製薬会社にとって医師が自社の薬を処方してくれるか否かが売り上げに直結する。講演などで薬を勧めてくれれば、それも売り上げ増につながる。また薬の開発には、患者で試す臨床試験が必要だが、これにも医師の協力が欠かせない。他の分野と比べ医学界で企業から金銭提供が目立つのには、こうした背景があるとみられる。

 ◇「組織自体の不正」対応できず
 文部科学省によると、全国79大学の医学部のうち利益相反ルールを設けているのはわずか22大学だけだ。厚労省が今回打ち出した「ルールを持つ研究機関だけに研究費を支給する」という方針は、事実上ルール策定を強制するもので、促進効果は高いとみられる。

 しかし、実効性には疑問が残る。厚労省指針の例示では、同一企業・団体から年間(1)研究者が100万円超の報酬(講演料・執筆料など)(2)研究室が200万円超の研究助成金・奨学寄付金など〓〓を得た場合、研究者は大学や研究機関に設置された審査委員会に報告しなければならない。審査委は必要に応じ、企業との経済的利益関係の開示や報酬受領の中止、研究の中止などを促す。

 ところが厚労省研究班の調査では、06年度に100万円以上の講演料を受け取った医学・薬学部の教授は回答者91人のうち10人のみ。1件で200万円を超える奨学寄付金を受け取った研究室は511件のうち14件だけだった。指針の基準だと、報告が必要なケースはごく一部にとどまる。

 さらに、大学や学会など組織自体への利益相反はなお深刻だ。ゲルシンガー事件でペンシルベニア大は、事前に企業資金での研究の是非を議論したが、大学の収入減を懸念し実施を規制できなかった。厚労省の指針でもこの点には触れていない。組織自体の不正に対応できないという懸念も指摘されている。

==============

 ◆厚労省が作成した利益相反についてのルール作りの指針骨子

・各研究施設は利益相反委員会を設置する

・研究者は一定額以上の研究費や報酬の受領などの、経済的利益関係を委員会に報告する

・研究者は厚労省に研究費助成を申請する前に、その研究について利益相反委員会の審査を受ける

・委員会は報告を受け、利益関係の開示や研究者の研究参加中止、報酬受領の中止など、適切な管理方針を決める

・利益相反で問題が生じた場合、研究施設は厚労省の調査に協力する毎日新聞 2008年3月30日 東京朝刊

毎日新聞

<<前の記事へ次の記事へ>>