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2009年09月28日 タミフル投与に現場困惑、厚労省方針徹底されず/新型インフル社会
新型インフルエンザの感染が拡大するなか、タミフルなどの治療薬投与について、医療現場から困惑の声が上がっている。厚生労働省は迅速に治療を開始するため、簡易検査で陰性でも投薬を検討するよう求める通知を出したが、医療現場には行き渡っていない。横浜市では、投薬されなかった12歳の男児が死亡する事例が17日に起きたばかり。タミフルは、異常行動の可能性から10代への投与が制限されていた経緯もあり、対策が後手に回る現状が浮かび上がる。
横浜市港北区の小児科診療所。連日切れ目ないインフルエンザの子どもの診察に追われながら、院長は困惑を隠さない。「簡易検査や薬の処方の仕方が、医師によってまちまち。国が方針を明確に示してくれればいいのだが」。患者側から投薬を強く求められることもあるが、詳しい対応の方針について国からの連絡は届いていないという。
厚労省が「簡易迅速検査やPCR検査の実施は必須ではなく、(中略)抗インフルエンザ薬の処方を含む必要な治療を行うことができる」という指針を都道府県を通じた事務連絡で示したのは、1カ月前の8月28日。簡易検査の判定が必ずしも正確でなく、投薬の遅れが重症化につながるケースが相次いだからだ。
しかし、周知は図られなかった。同省は9月18日に再度の事務連絡を行っており、「最初の連絡は70ページと大量で、そのうちの1ページに示した指針に目が届いていない可能性がある。今回は治療方針に絞って出し直した」と、当初の通知方法に問題があったことを認める。それでも省内からは「一度出したものを再度出すのはいかがなものか」と異論が上がったという。
そうしている間に横浜市の男子児童は死亡した。
横浜市などによると、男児は最初に受診した診療所と入院した病院で計3度の簡易検査を受けたが、いずれも陰性だった。入院後に感染が判明したが、医師が重篤だった心筋炎の治療を優先し、タミフルなどの治療薬が使われないまま息を引き取った。
市は入院した病院から聞き取り調査を行い、「病状に応じて必要な治療は行われており問題はなかった」との結論に達し、厚労省にも報告している。だが、最初に受診した診療所でなぜ投薬されなかったのかは不明なままだ。市は「遺族感情もあり(診療所に)詳しく聞ける状況にない」として、現時点で調査は予定していない。
患者が増え続ける現場では、投薬の判断をめぐって医師の戸惑いが広がっている。ある小児科医は「10代の子どもに異常行動が見られるとして2年前に厚労省が出した、タミフル使用を制限する通知はまだ生きているはずだが」と首をひねる。また、日本小児科学会が23日に開いた緊急学会では「検査結果が陰性なのに薬を処方し(過剰な投薬として)診療報酬の請求が通らない可能性はないのか」という不安の声も上がったという。
厚労省は、2年前の通知が10代患者へのタミフル投与を一律に制限するものではないとの見解を示し、診療報酬に関しても簡易検査が必須ではないことを通知しているが、ここでもその情報は行き届いていない。
日本小児科学会会長で横浜市大付属病院の横田俊平教授は「役所(からの通知)が中心の現状では、刻々と変わる状況に対応するには限界がある。国立感染症研究所など、専門家が前面に出て対策を打ち出せる体制に早く切り替えるべきだ」と指摘した。